2010年を迎え

 2010年を迎え、この一年何をしなければならないかを考えてみた。まず、年を越した問題から処理しなければならない。

 それは、日本語教育の再開、事務所を移転するか売却するかの問題解決、社員洗脳法の研究などである。後半には、募集・採用活動の改善が待っている。会社案内やプレゼンテーションのリニューアル作業もある。

 検討事項としては、本社研修期間を3年に延長すべきかどうかの問題がある。また、個人的には骨董品収集再開という大きな目標もある。今年も忙しい年になりそうだ。


1月の西安

 日本語教育を考える

 日本語教育を担当していた社員が、昨年11月末に退職した。理由は、教えることが好きになれなかったということだ。「日本語教育をプロの先生に頼んでみてはどうか。」と、西安スタッフから提案がある。人脈を頼りに西安に情報網を張る。

 12月中旬になって連絡が入ってきた。日本留学から戻って来たばかりの先生がいて、日本では留学してくる中国の学生に日本語を教えていたと聞く。早速面談する。教え方は多民族国家アメリカで行われている方法に似ていて、学生時代に通った英会話学校を思い出す。

 この学校では、英語で考える訓練から始める。確かに、外国語の習得には最良の方法だと思える。素晴らしい先生が見付かった。また、新規に通訳として採用を決めた学生には、卒業前ではあるが教育再開にあわせて出社してもらうことにした。先生の助手を勤める。1月から日本語教育が再開できる。

 先生の講義は、動きあり笑ありで進められる。教科書はなく、全てが日本語による説明。日本語に日本文化も添えて教えていく。確かに、日本文化を理解していなければ、正しい日本語にならない。プロフェッショナルの教え方は違う。



 事務所の移転か

 ビル防災工事のため、事務所を離れてから2年になる。半年ほどで戻るはずであったが、今も仮事務所生活が続いている。ビルの前家主と新家主の間で争いが起き、工事がしばしば中断されたことによるものだ。

 昨年11月頃から、新家主側からの「事務所を買い取りたいコール」が増えてきた。裏ルートからの調査によれば、2月の春節前には全ての工事が終わるらしい。コールの理由はハッキリした。しかし、こちらに売る気はない。

 コールの度に提示価格が上昇していく。12月中旬には、投資額と同額になった。ここから悩みが始まった。仮事務所の環境に満足している。併設されたレストランの料理も美味い。しかし、情熱を注いだ内装設備には愛着がある。どちらを選ぶか。

 12月下旬、あるはずはないと思っていたこちらの希望額(投資額+売却時の税金+諸費用)を、新家主が受け入れた。今更後には引けない。1月中旬、売買契約書にサインした。


 




 西安の冬
 

 今シーズンの冬の到来は早かった。昨年11月上旬に大雪が降った。39年振りだそうだ。その後も気温0℃以下の日が続き、火力発電所の石炭が不足してきているとまで聞く。寒がりなので、1月の西安出張が心配である。

 対策として、極寒用の防寒着、ホッカイロ、体を温める食品などを、日本から事前に郵送しておいた。出発日が近くなって、日本でも大寒波来襲である。

恐る恐る西安空港ビルから出る。おや、寒くない。1月に入ってからの冷え込みは、さほどでもないらしい。西安オフィスは床暖房、室内はTシャツ1枚で過ごせる。中途半端な寒さの岡山よりも、ずっと暖かく過ごせるかもしれない。

この冬、新疆ウイグル自治区アルタイ地方では羊たちが雪に埋められたり、渤海沿岸では海が凍ったりと、例年にない厳しい冬になっている。北極の寒気は、気まぐれに中国各地を襲っているようだ。










久しぶりの骨董市場

 久しぶりに骨董市場を訪ねる。多くの人で賑わっていた。骨董ブームは、その後も順調に成長を続けているようだ。中国では投資が株から不動産へ、そして今や骨董品や美術品に移っていると聞く。テレビでも、「投資・骨董品」の番組が度々流れる。バブル経済時の日本と同じだ。

 馴染みの店に寄る前に、路上で商いをしている店を見て回った。本物に似せようと作られた贋作と思える品々が、シートの上に並んでいる。不思議にも、それらが可愛く見えてくる。値段は数十元から数百元程度で、リーズナブルである。西安土産として面白いかもしれない。

 問題なのは包装で、路上店では新聞紙とかトイレットペパーで包んでくれるだけ。中国では包装はどうでもいいことなのだ。ここにも文化の違いが見える。日本土産にするには箱が必要になるが、正規の骨董店に頼めば、形にあわせた美麗な箱を安価で作ってくれる。

 じっと私を見つめ続けている男がいる。彼の足元には、泥でスッポリと覆われた品々が置かれてある。中身が見えなくては商売にならないだろう。彼に「泥を取って欲しい。」と頼むと、「買ってくれるのなら。」との返事。こいつは何を考えているのだ。立ち去ろうとすると、彼は慌てて泥を取り始めた。

 見えてきた。玉質は評価の対象になるような品ではないが、デザインが面白い。「通常価額は500元だが、あなたなら特別に値引きして200元にするから買わないか。」である。

 首を横に振ると、「いくらなら買う?」とくる。いつものやり取りである。納得できる金額になった。手を泥だらけにしながら、4点を選んで買い求めた。金がなくても楽しめるものだ。

 喉が渇き、茶を馳走になりたいと馴染みの店に寄る。入店すると直ぐに店主はドアを閉め、カーテンを引き、お茶を出してくれた。お茶だけでよかったのだが、店主は展示会を始めてしまった。

 テーブルや棚の空いた所に、初めて見る品々を並べていく。はるかにグレードアップされている。その中の一点、玉質・デザイン共に最高、彫刻・泌色も素晴らしい。一生に一度会えるかどうかの品と見た。店主に「貯金できるまで5ヶ月かかるが、それまで待ってくれるか。」と頼んでみると、ダメと断ってくれればいいものを「OK」の返事である。

 こうなると、酒・タバコ・菓子の量を減さなければならない。苦しい日々が始まることになった。



2月の西安  

 社員ミーティング

 「社員の悩み解消」にと、月に1度社員ミーティングを開くことにした。特に3年目を迎えた社員にとっては、本格的な対話が必要な時期でもある。自由な雰囲気をつくってから、提案や意見を出させた。その中に、公私の区別がない自己中心的な要求、同僚からの一方的な情報のみによる会社に対する誤解や不満、上司に対する無礼な意見があった。

 腹を立ててはこちらの負け、じっと彼らの話を聞いた。結果、悩みを抱え込むことになった。

 中国と日本の違いは大きい。中国では日本の常識は全く通用しない。過去の指導においては余りにも高い理想の話ばかりで、肝心なところが理解できなくて現実世界に役立たなかったように思われる。これからは、より現実的で短期的な話に換えて指導していく必要がある。

 入社2年目までは上司に恐れを感じているようだが、3年目に入ると恐怖心は薄れて親近感の方が強くなる。親近感も適度であれば問題にはならないが、限度を超えてくると上司にとっては不快な思いをするようになる。親しき仲にも礼儀ありだ。

 まずは、上司との良いコミュニケーションから再教育していくことにしよう。





 お正月を迎える

 国の正月(春節)は陰暦で行われる。春節前後の1ヶ月間は、対外的な仕事は停止状態になる。問題が起きたとしても、「春節が終わってからにしましょう。」が合言葉。休暇は法律上では3日だが、国が前後の土・日曜日を勤務日に振り替えて7〜8日間の長期休暇にする。

 今年の元旦は2月14日、バレンタインデーと重なっている。中国の恋人達は、プレゼントを2個用意するのだろうか。政府は、西洋のバレンタインデーを中国人が祝うのは間違っている。中国には古くから同じ意味の「七夕の日」があると愚痴っている。

 春節休暇を2日残した17日に、採用内定者実習準備のために西安へ移動した。春節恒例の花火が、時を選ばず爆音を響かせている。派手さが中国らしいところではあるが、夜10時以降は謹んでもらいたいと思う。この日の深夜0時、この騒音の中で64歳の誕生日を迎えた。


 



 採用内定者実習を考える

 過去3回の採用内定者実習で、日本式の考え方について指導してきた。しかし、教え子たちの記憶の中に、恩・義理・人情などの考え方は全く残っていないように思える。教え方が悪いのか、彼らには理解できないほど難しいことなのか、どちらなのだろう。

 「日本武士は恩返しが出来ないと、自ら切腹して恩人に詫びた。」などの話を、彼らはどう捉えたのだろうか。日本文化を理解する上では、この恩・義理・人情は大切なことだと思っているのだが。

 「相手の立場に立って考える」、「お客様は神様」、「公私の区別」、「仕事の効率」などは、日本では常識的な話だが、実習生にとってはどれも初めて聞く話ばかりになる。また、「身だしなみ」や「挨拶」についても、先生や親から指導を受けたことはないと聞く。

 「職場のルール」は、窮屈に感じるだけのものなのだろうか。毎年この時期になると、同じことで悩む。

 今年の実習は、「彼らの考え方を変える。」に全力を注がなければならない。開発技術と日本語を中止してやることにした。理解してもらうためには、身近な例を多く取り入れていかなければならない。深夜残業も厭わずに、頭をフル回転させながら原稿の修正作業を行っていく。

 実習が始まる直前にビル共益部から、テナント新年会に招待された。会話の中で多くの出席者から我社の評判を聞いた。すこぶる良い評価ばかりで、「事務所の雰囲気が大好き」、「社員の行儀がとても良い。どの様な教育をしているのか。」、まだまだあるが、自慢話はこのあたりまで。このことで、過剰になっていた教育意識が少し薄らいだ。実習は楽しくやらなければ。

 共益部に感謝します。



 

 …3月の西安…

 実習が始まる

 実習生全員が元気に出社して来た。修正した原稿を手元に置いて、彼らと対話しながら実習を進めていった。先輩たちは言う、「今年の実習生は覚えが早いですね」。そうではないだろう、君たちが遅かったのだ。確かに理解度が良くなった。言葉の奥にある意味を、期待以上に深く考えてくれている。身近な実例を増やしたことが、役に立ったと思われる。

 半ばから、難易度レベルを上げた。仕事中の先輩たちにも聞かせようと、はっきりと大きな声で喋るようにした。課題であった「恩、義理、人情」については、たっぷりと時間をかけた。先輩たちも、今回はきっと理解してくれただろう。

 僅か2週間の実習ではあったが、生徒たちはすっかり社会人気分になっている。彼らから感謝の言葉を聞くと、ほんとうに嬉しくなってしまう。「来年も頑張るぞ」の元気をもらった。

 次年度の実習に準備したいものが明確になった。第一は、本社にいる崗山社員が本社の様子を中国語で紹介していくビデオの製作。第二には、崗山社員が登場してくる中国語版の教育用ビデオの製作。どちらも、費用の関係から自社製作になるが、素人でどこまでのものが出来るか挑戦してみる。