玉収集のその後-5
新たに通い始めた骨董店には、他店では見ることができない高級非買品が金庫に納められている。その他、この店では2体が1組になった品が多いといった特徴もある。
客は2個一緒に買うことになるので、ありがたい話とは言い切れない。何故、2体1組にこだわるのか?調査してみると、彼の奥さんは1歳年上のそれは大層な美人で、しかも新婚ホヤホヤであった。「いつも二人は一緒。」と、新妻にアピールしているのだろう。
若い店主は、「自分に資金があれば、もっと素晴らしい品が集められるのに。」と、横目で見ながら悔しそうに話す。これは、「どれでもいいから早く買ってくれ。」と言っていると思える。
この店には著名な収集家たちが立ち寄るという。彼らは買った品を北京や上海で売るのだが、その販売価格は西安購入価格×100にもなるらしい。店主はそれが悔しくて、「彼らには売りたくない。」と言う。
これは「この店の商品は安い。」と言っているように聞こえてくる。
親しくなるにつれて、金庫の中の非売品が売品に変わってきた。高価ではあるが、見たり触ったりしているうちに欲しくなってくるのが収集家の常。今が辛抱の時だ。雑談中に、私が夢見ている品についてうっかり喋ってしまった。 翌日には、「希望の品が入ったよ。」と彼から連絡が入る。それにしても早い対応だ。見るだけと、もう一度自分に言い聞かせてから店を訪ねた。
カーテンが閉まり、展示会が始まる。
準備された中に、とても気になる品があった。雪のように白く、暗やみの中でも白く輝いているようにさえ思える。繊細な彫りが施され、倒れそうに傾いた不思議な姿をした酒器だ。店主は、「どうだ、いいだろう。」と言いたげな表情である。彼の作戦通りに事が進むのは悔しいが、鳥肌が立つくらいの魅力を感じる。
どうしても欲しい、「これ、いくら?」
後になって気付いたことだが、陝西省歴史博物館で撮影した写真の中に戦国時代を代表する青銅製の酒器がある。その酒器と、胴の紋様に少しの違いはあるものの、姿や形は瓜二つであった。もしかしたら、この二つは同時期に作られたのかもしれない。
そんな歴史ロマンが感じられてくる。紀元前に、これほどお洒落な酒器が作れたとは。日本はまだ縄文時代である。
戦国時代を調べ直してみた。多くのデザインは春秋時代から引き継がれているが、線で描かれた渦の紋様や浮き彫りされた雲や繭の紋様などは、戦国時代独特のものだ。
几帳面で繊細な彫刻、清楚で自由奔放なデザインに魅力がある。
調べを続けていくと、3年前に骨董知人から譲り受けた2体が1組になった武士像と動物たちの置物が気になってきた。武士像は大きな鼻と履物が、動物は全体に施された紋様が、この時代の作品と実によく似ている。専門家は、「模倣品は実にうまく作られていて、姿やデザインだけでは判断できない。大切なことは、色の深みや職人魂が込められているかいるかを感じとることだ。」と言う。
理解はできるのだが。果たして鑑定は?
収集品の中には、「戦国時代に間違いない。」と自信を持って言える「楽人と舞姫」と名付けた六体が一組になった置物がある。玉材、顔立ち、衣装、楽器、いずれも戦国時代の特徴を備えている。その他に、鳥の姿をした酒器もこの時代のものであろう。
西安への道中で読もうと、日本の書店で骨董の楽しみについて書かれた本を購入した。最初から最後まで頷くことばかりであった。その中で、「骨董収集には購入資金が一番の問題になる。」は名文だ。資金により、欲しい品と買える品が違ってくる。痛感している。筆者の本業は古本屋というが、とてもその様には思えない。これから、彼と同じような人間になっていくのだろうか?
玉収集のその後―6へ続く。
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