…7月の西安…

 

茘枝(レイシ)は果物の王様


 

 西安で生活を始めた頃、果物店で皮にトゲがあり鮮やかな赤色をした果物を見た。色は違うが、日本で食べた果物と形は似ている。店主に訊ねると、中国産のレイシで、違いは鮮度によるものだった。試食させてもらうが、口の中は果肉でいっぱい、上品な甘さと香り、水分たっぷり、言葉にならないほどの美味しさだった。

 

 店主が自慢話を始めた。中国産レイシの特徴は種が小さいので果肉が多く、芳香が強く味に深みがあると。ベトナム産を試食したが、言われた通り果肉が少ない。満足度は50%といったところだ。賞味期限は購入から4,5日と短く、シーズンも6月下旬から7月中旬まで。この時期が来ると、悔いが残らないように毎日食べている。

 

 レイシは古くから珍重され、楊貴妃が華南から早馬を走らせて運ばせたという有名な話が残っている。葉酸、ビタミンC,カリウムを多く含み、風邪、癌、貧血、高血圧などの予防に効果があり、便秘まで改善してくれるというから果物の王様だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 西安の茶人

 

 西安には茶を楽しむ知人が多く、茶の話が始まると何時終わるか分からない人たちばかり。休日には、朝から夕方まで茶館や茶葉店で過ごすと言うから凄い。彼らから聞いた話によると、中国茶の銘柄は多く、現在でも400種類以上あるそうだ。大分類すると、緑茶、青茶(烏龍茶)、白茶、紅茶、黄茶、黒茶、花茶に分かれる。茶人たちは、春は香りと澄んだ色が楽しめる緑茶の新茶、夏は体温を下げてくれる緑茶、秋は烏龍茶、冬は体を温めてくれる黒茶を飲んでいると言う。

 

 中国茶を飲み始めたきっかけは、茉莉花茶(ジャスミン茶)が昼食後の眠気を覚ましてくれると聞いたからだ。日本の研究所の調査によると、ジャスミンの香りには脳神経を刺激する効果があり、午後の作業効率が10%向上したと言う。試してみると研究所が言う通りで、眠気覚ましに大きな効果があった。ジャスミン茶は花茶の分類に属し、茶葉が持つ臭いを吸収する特性を生かしたお茶だ。中国人が凄いと思うのは、香りを飲んでしまうという発想だ。

 

 土産に届けたジャスミン茶にハマった日本の友人がいる。ジャスミン茶を冷蔵庫で冷やし、好きな焼酎をこれで割って飲んでいる。色々と試したが、ジャスミン茶に勝るものは無かったそうだ。焼酎が主役かもしれないが、中国茶を楽しんでいることは確かだ。

 

 日本でポピュラーな中国茶と言えば、ペットボトルに入った烏龍茶だろう。だが、中国で一番飲まれとているお茶は緑茶で、生産量の70%を占める。特に、新芽の二芽だけを手で摘んだ茶葉が人気で、香りが良く、爽やかな味が魅力だ。

 

 人気銘柄は「西湖龍井茶」で、日本の茶人たちからも愛されている。その他、見て楽しむ緑茶がある。グラスに茶葉を入れて湯を注ぐと、茶葉は一旦浮かび上がるがその後ゆっくりと沈んでいく。底で葉が縦に整列して、針が何本も立ったような様子になる「銀針」の名付けられた茶葉。その他、大きな葉がゆらりゆらり沈んでいく様子を楽しむ「太平候魁」という緑茶がある。中国の茶人たちは風流を知っている人達だ。

 

 日本で知られている烏龍茶の銘柄は「鉄観音」だろう。商品名が同じならどれを飲んでも美味しいというわけではない。品質によりランク分けされていて、味と値段がイコールになっている。茶人たちから、茶葉は専門店で試飲してから購入するようにと注意された。土産物店で袋詰めされた茶葉は、中に何が入っているか分からないからだ。

 

 特に緑茶を買うときは、保冷庫に保管されている緑茶を買うようにとも言われている。緑茶は暑さに弱いのだ。西安の茶人に好まれている烏龍茶は、特別に「岩茶」と呼ばれる種類のお茶で、岩の間に根を張り、岩からしみ出てくるミネラル分を吸収して育った樹から摘み取った茶葉だ。岩茶は福建省の武夷山が産地で、香・味ともに素晴らしく、その中で「大紅袍」が私のお気に入りだ。

 

 黒茶の代表は普?茶(プーアール茶)で、中国南部の雲南省が産地になる。昔々、チベットへ一度に沢山の茶葉を運ぶため、茶葉を蒸気で圧縮して小さくした。ロバの背で運ばれていく間で白カビが発生して、茶葉の味がまろやかになったと聞く。プーアール茶には、10年物、20年物、30年物と表示されて売られているものがあり、古くなるほど高価になり、味もまろやかになる。

 

 

 また、普?茶には熟茶と生茶があり、日本に入ってくる茶葉のほとんどは熟茶で、生茶は日本人に馴染みやすい緑茶に近い味で、美味しいが胃を痛めるそうでたまにしか飲んでいない。熟茶には痩せる効果があると聞き、毎年寒い時期になると飲んでいるが、何年飲み続けても体形に変化が見えてこない。痩せるって本当だろうか。

 

 中国の紅茶(べにちゃ)と英国の紅茶(こうちゃ)の違いについて茶人に訊ねると、「全く違うお茶だ。」と言う。どんな違いがあるのか訊ねると、どの茶人からも明確な答えが返ってこない。飲み比べてみると、若干の甘さの違いだけだ。紅茶(べにちゃ)は西安で人気が急上昇しているお茶だ。

 

 

 先日西安の高級スーパーを歩いていると、伊藤園の中国工場で製造された白茶ベースのジャスミン茶が置いてあった。香りが良く、白茶の上品さを生かした味に驚ろいた。白茶は、色が無く、味がなく、飲んで暫くしてから甘味が感じられる不思議なお茶だ。伊藤園さんの発想には脱帽だ。サントリーも頑張っていて、高級岩茶「大紅袍」をペットボトルで売り出した。

 

 その他黄茶があるが、生産量は極めて少なく、高価だと聞いているのでまだ飲んだことがない。
 



 

 

 

 

 

 

 



 …8月の西安…

 

黄河瀑布を観光

 

 今年の西安の夏は雨が多く、このような天候は30年振りだそうだ。雨は、黄土高原の土を削って黄河へ流れていく。きっと、河は黄色く染まっているだろう。西安の北400Kmのところにある瀑布へ行ってみることにした。落差はないが、川幅が狭く激流が流れる観光名所だ。

 

 車をチャーターして7時30に西安を出発、途中で名物の黄河鯉で昼食、到着したのは13時を過ぎていた。入場口で65歳以上は入場無料の券を貰い、専用バスに乗り滝口まで移動。バスを降りると、太陽が照り付け、激しい蒸し暑さが襲ってくる。

 

 汗を拭きながら歩くこと5分、眼下に激流が走り、正面からは大音響とともに黄色い水が迫ってくる。日本では見ることができない風景に感動したが、あまりの蒸し暑さで数分間撮影しただけで日陰へ避難。夏の観光は暑さとの戦いだ。





 

 

 

 

 

 

夏限定の名物麺

 


 西安には、暑い夏には欠かせない名物麺がある。歴史は古く、秦の始皇帝への献上品として考えられた麺だ。米粉を糊状にして、竹のセイロに薄く延ばして強火で蒸す。それを細く切って麺にし、セロリやモヤシなどを加え、特製の油を注ぐと出来上がる。西安人が好む唐辛子の香りと味の秘密は油にあり、唐辛子、山椒、白胡麻を細かくし、それに熱した油を注いで作る。冷たい麺とサッパリした味は、西安の暑い夏にはピッタリ。この麺を西安人は「涼皮」リァンピーと呼んでいる。

 

 食感は、コシが強く讃岐うどんに近い。私は唐辛子が駄目、山椒は苦手、それに油っぽいのも好まない。どうしているかというと、油抜きで麺と野菜だけ注文する。そこに日本から持参した麺つゆに生姜を加えて食す。違和感なく、美味しくいただける。

 

 涼皮とセットになった名物料理がある。それは、「ロオジャーモー」と呼ばれる料理で、細かく切った豚肉に生姜を加えてじっくり煮込み、硬く焼いたパンの間に挟んで食する。肉汁したたる肉とパンの相性が抜群で、西安の味を大いに楽しませてくれる。左手にロオジャーモーを持ち、右手で涼皮を食するというのが西安流の食べ方だ。






 



 熱狂的な黒酢のファン 

 

 日本の友人の一人に熱狂的な黒酢ファンがいる。若い頃から、酒も飲むが黒酢も飲む。彼は会うといつも黒酢の話をする。「黒酢は鹿児島産に限る。」とか、「沖縄産に限る。」とか。黒酢はもともと中国のものだろうと言いたいが、いつも黙って聞いている。

 

 酢の物が好きで、西安で時々調理している。使うのは日本から持参した米酢だ。ガラス瓶をクッション材で巻き、厚手のビニール袋に入れ、箱詰めにして運んでいる。ある日、鍋屋に日本産米酢を持参するのを忘れたことがある。仕方なく店の中国産黒酢を使うが、これが大変美味で、香りが良く、酸味の中に甘味とコクがある。さすが、香醋と呼ばれるだけのことはある。

 

 中国産黒酢の種類は多く、その中から数本を選んで日本の友人に届けた。彼に選ばせるためだ。報告によると、鍋屋が使っていた黒酢が一番美味しいということだ。早速スーパーに行くが、お目当ての品の隣に「六年物」と書き加えられた瓶が並んでいた。不味いわけはないだろうと2瓶買い、1瓶を彼に届けた。連絡を待っていると、「こんなに美味しい黒酢は初めてだ。」との嬉しい報告があった。そうだろう、黒酢はもともと中国のものなのだ。やっと気分も晴々である。

 

 日本産黒酢について調べてみると、生産の歴史は浅く1975年から。健康志向ブームに乗って人気が急上昇た。広告欄を読むと、黒酢に含まれるクエン酸は疲労回復に、アミノ酸は血流改善やダイエットに、メラノイジンの抗酸化力は老化防止に効果があると書かれてあった。日本産黒酢は米と米麹で造るが、中国産黒酢にはその他にコーリャンや大麦が入ると聞いている。そうだとすると、中国産にはもっと多くの効果が期待できそうだ。黒酢研究を続けることにした。




 

 

 


 …9月の西安…

 

  海外事業部長を招集 

 

 6月に西安のNECが、突然中国企業に会社を売却したことを発表した。古くからいる社員たちは大騒ぎ。その影響で、西安の日系企業の評判が急落した。今年の採用が気になる。そこで、過去に効果があった「本社から海外事業部長が特別参加」を募集用ポスターに書き加えることにして、部長を西安に招集した。

 

 9月下旬、台風を避けて一緒に西安へ移動。1週間に2回の会社説明会を開くハードスケジュールだ。1回目は90名、2回目は40名の参加者だった。昨年の3分の2程度だが、北京や上海の大手企業と比較すると良いらしい。当社の4〜5倍の待遇で募集しているが、参加者は10名にも満たなかったと聞く。大学院へ進学する学生が増えたことが影響しているように思える。

 

 筆記試験の合格者は7名、面接試験で5名に絞った。その後の健康診断や本人辞退などで採用内定者は2名になったが、これは例年と同じ状況だ。ただ、今年の状況から判断すると、このまま秋の募集を続けても効果が期待できない。秋の募集活動を中止して、来春に募集することにした。



 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



 西安の土産には何を
 

 

 西安の土産を何にしようかと悩むようになり、中国の宝物について調べてみた。自然のサプリメントと言える、クコ、ナツメ、ピーナツが見つかった。味良く、健康促進に役立つものばかり。特に、クコとナツメは、良質なものが日本では入手し難いので、西安の土産にはピッタリだろう。

 

 クコは「ものすごいパワーを持ったスーパーフード」と呼ばれ、小さな粒に100種類以上のビタミン、ミネラルを含んでいる。不老長寿、滋養強壮、疲労回復、精力増進に効果があり、楊貴妃も一日に3粒を食したと聞く。マーケットでも購入できるが、美味しさに拘るなら西安空港内にあるクコ専門店「百端源」だろう。自社の農園で無農薬有機栽培された大粒のクコで、洗わなくても食べられる安心ものだ。そのまま食べても良いが、出来上がった料理に添えるのが似合う。鮮やかな紅色が、スープ、デザート、粥、煮物料理を引き立たせてくれる。野生のクコの実も人気で、こちらはぬるま湯を注ぎ、お茶がわりに飲むタイプだ。

 

 ナツメは「久しく服すれば身を軽くし、年を長くする。」と言われ、ビタミンB群、カリウム、カルシュウムが多く含まれる。ストレス対策、精神安定、不眠予防や貧血などに効果がある。タクラマカン砂漠やゴビ砂漠を越えられたのは、ナツメがあったからだと聞いている。一般的には乾燥ナツメが使われるが、夏限定で生のナツメが果物店に並ぶ。口当たりはサクサク、甘酢っぱい味は美味で、毎年この時期になると箱買いしている。

 

 乾燥ナツメは陝西省産もあるが、新疆ウイグル産の方が大きくて美味い。食べ方は、お粥、炊き込みご飯、スープなどに入れる。疲れた時などにはナツメだけを蒸して食しているが、天然の甘さは何物にも勝り、一粒食べただけで疲れが吹っ飛んでいくようだ。秋になるとその年に収穫された乾燥ナツメが出回るが、前年に収穫されたものを購入する。甘さが違うのだ。また、購入は土産物店ではなく、果物店からをお薦めする。土産物店の袋詰め商品には、質の悪い品が混っていることがある。

 

 ピーナツは良質のたんぱく質を多く含み、カリウムやマグネシウムなどのミネラル分、ビタミンEやB群が多い。老化や肥満の防止、更年期障害の軽減、ストレスやイライラの予防、記憶力や集中力まで高めてくれる優れものだ。脂質は多いが太りにくい油で、悪玉コレステロールを減らしてくれるという効果もある。最近、料理用のピーナツ油を見つけて使っているが、味・香り共に素晴らしく、卵料理に使うと特に美味しく感じられる。中華料理では、ピーナツは煮たり、炒めたり、揚げたりと多様に使う。一粒ずつ箸で口に運びながら料理が出てくるのを待つ、中国文化が感じられる時だ。

 

 購入時期は9月から3月までが良く、この時期を過ぎると油が回って味が落ちる。購入に際しての注意点がある。包装に使われている袋の質が悪く、そのままスーツケースに入れて持ち帰ると、袋が破れてケース内がピーナツだらけになる。丈夫な日本製ビニール袋に入れて持ち帰えることをお薦めする。

 

 西安料理の中に「八宝甜稀飯」という、もち米と漢方食材を煮込んだ粥がある。食材にはクコ、ナツメ、ピーナツは勿論のこと、その他に白キクラゲ、サンザシ、干しブドウ、クワイ、バラなどが入る。健康に良いとされる食材を、これでもかと集めた料理だ。酸味と甘みのバランスが絶妙な粥だ。




 

 

 

 

 …10月の西安…


 来客歓迎

 

 10月は2組のお客様を西安にお迎えする。訪問が二度目になるお客様と新規に取引が始まったお客様の2組だ。準備に入る。五星ホテル〈外国人には五星が安全〉の宿泊予約、食事の際の個室手配や料理選び、車の手配などだ。気になるのは台風19号で、まともに日本へ向かっている。

 

 願いは届かず、台風は先に来られるお客様の出発日に日本を直撃して、成田空港は全面閉鎖となり来訪は中止。大きな被害を出した台風は通り過ぎ、2組目のお客様は予定通り常務の案内で西安へ到着された。常務には、西安開設以来ずっと西安出張を促してきたが、いつも理由を作っては逃げてばかりだった。

 

 14年目にしてやっと実現した出張だ。広東料理で歓迎夕食会、翌日は朝からお仕事が始まる。「せめて兵馬俑だけは見に行きたいな。」とお客様のつぶやきが聞こえてきた。最終日は兵馬俑観光だ。


 

 

 

 

 

 

 

 …11月の西安…

 西安でしか食べられない料理

 

 これを食べなければ西安に来たことにならないと言われる料理がある。それは「羊肉パオモウ」だ。固く焼かれたパンを自分の手で細かく千切り、羊肉を煮込んだスープに春雨や野菜を加えたものをパンに注いでもらい食する。

 

 パンは出来るだけ細かくした方が、スープがパンに浸み込みやすくなる。この料理の価値は、自分の手でパンを千切るところにあると思う。同席している友人達と、楽しく会話しながら作業を進めるからだ。

 

 パンの数は自由で、地元男性の平均は4個。スープを吸ったパンのボリュームは何倍にもなるので、私は1個半にしている。日本で食べる羊肉は臭いや味に癖があるが、西安の羊肉は臭いがなく、柔らかくて美味い。その訳は、生まれて9ヶ月目の羊を食用にするからだ。羊肉の脂肪分には体を温める効果があり、特に寒い時期に食さ良い。

 

 西安人は、この料理のことを食べても減らない料理と言う。食べている間にパンがスープを吸って膨らんでくるからだ。また、食べ終わってからお腹が膨くれる料理とも言う。パンが胃に納まってからもスープを吸い続けて膨れる。結果、西安人はいつも食べ過ぎを後悔していると言う。

 

 この料理に欠かせない薬味がある。それは酢漬けニンニクだ。これを左手に持ち、右手で羊肉パオモウを食するのが西安流の正式な食べ方だ。日本ではニンニクを一切口にしないが、西安の酢漬ニンニクだけは美味しく食べられるから不思議だ。

 

 一般の羊肉パオモウは、私にとっては塩味が強く、油っぽい。どうしたら美味しく食べられるかを研究した。塩分を控えめにして、脂身が少ない子羊肉のスープに、脂身のない子羊肉を添えれば、私好みの羊肉パオモウが出来上がる。一般的な値段は20元程度だが、私のスペシャル版は60元(日本円:1000円)にもなる。待ち時間と費用はかかるが、美味しさを考えれば問題ではない。

 


 

   2019年の終わりに

 

  今年の目標は「怯まず挑み続ける」だった。2019年の一番の成果といえるのは、西安の超過勤務手当の年累計が前年度比で23%増になったことだ。これは、西安の作業量が増えたからで、喜ぶべき変化だ。