2022年の元旦に

 

 2022年の元旦は西安で迎えられることを願ってきたが、その願いは叶えられなかった。昨年12月下旬に西安市はコロナ感染拡大で都市封鎖になり、2月には北京で冬季オリンピック開催が予定されている。そのため、中国の入国制限は一段と厳しくなり、海外からの訪問者は完全にシャットアウトされた。政府目標はゼロコロナ、理想ではあるがハードルが高い。

 

 西安行きは諦めて、日本で気分良く過ごすにはどうすれば良いかを考えた。園芸作業は続けるが昨年ほどの作業量はなく、空き時間をどう埋めるかが課題である。脳裏に浮かんだのは、昨年12月に西安で発掘されたガンダーラ仏像のこと。そうだ、収集した骨董品(玉器)の手入れを再開しよう。春と秋は園芸作業を、夏と冬は骨董品の手入れを、季節に合った過ごし方だと思える。

 

 

 

 

 

 

 

    …1月の西安…


 社員1名が本社へ移籍


 2017年西安子会社へ入社、2018年に本社へ転属してから3年が経過する社員が、本社で仕事を続けたいと言ってきた。願ってもないことで、新年を迎える前の12月21日付で本社へ移籍した。

 


 西安子会社にとっては戦力低下になるが、西安から本社へ転属して来る社員の指導者として力を発揮してくれることを期待している。時が人を育てると言われるが、そんなことで日本人と対等に付き合える中国人は育たない。彼の力を借りて、日中間で活躍できるハイレベルなプロフェッショナル・SEを多く育てていきたい。

 

 

 

 

 

 


 
 個人所得税法の改正 

 

 昨年1月に施行された新・個人所得税法は,コンピュータ・システムの不具合によって、一部の制度を残して旧制度に逆戻りした。残されたのは所得控除制度で、老人扶養、子供教育、住宅ローン、住宅賃貸が控除されるようになった。給与所得者にとってはありがたいことだ。

 


 法律改正は直前にならなければ知らされない。企業側はいつも慌ててばかり。しかし、今回の発表は昨年暮れにあり、早い知らせを喜んだ。内容を確認すると、賞与の所得税軽減制度が廃止されていて、喜ぶのが早過ぎたと反省。だが、数日後に旧制度に戻す発表があった。直前になるまで本当に分からない。



 

 



 



 西安市の都市封鎖

 西安市の都市封鎖は、昨年12月23日に突然始まった。封鎖中に聞いた話を、そのままお伝えする。
 感染者が見つかると、濃厚接触者を含めて彼らが居住するマンションの全住民を、夜間にバスで5,6時間かかる隔離施設へ移送。施設の環境は良いとは言えず、幼い子供を持つ親や高齢者がいる家庭などは、怖くて眠れなかったという。ある知人は、サイレンの音が聞こえただけで、動けなくなったそうだ。ペットの同行は許されず、殺処分されてしまった。残酷過ぎる。

 


 感染者の立ち寄り先は全て封鎖され、その地区に住む全住民のPCR検査が連日行われ、まるで犯罪者のような扱いをされたそうだ。封鎖は予告なしで実施され、たまたま居合わせた人も外へは出られず、その場所で生活しながら解除を待ったという。生活用品は無く、ひげ・髪は伸び放題、風呂無し・着替え無しの生活を続けた。

 


 自宅隔離された人の心配は食べること。備蓄した食料品は乏しくなるばかりで、不安な日々を過ごした。食料品の配給が始まったのは封鎖から2週間が過ぎた頃からで、味付けを濃くして食材の節約に努めたという話も聞いた。その他、調理設備がない寮施設に住んでいる学生が、腹を空かせて夜間に抜け出して饅頭を買い求めたが、公安に見つかり暴行を受けた。路上に転がる饅頭が日本のニュース映像でも流れ、涙が出てきた。どうしてここまでやるの。

 


 年が明けた1月25日に、西安市の都市封鎖は解除された。中国国旗を手に封鎖テープをカットする市民の様子が、日本でもテレビ放送された。







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 春節のプレゼント   

 

  西安では春節が近くなると、会社は社員にプレゼントを贈ったり、食事会を開いたりする。昨年はコロナ感染対策のため食事会は中止、ナッツの詰め合わせセットをプレゼントした。会社からのプレゼントには米、食用油、果物といった品が一般的で、大きくて量が多いものが好まれるようだ。また、会社からのプレゼントには家族や親族に対する社員の面子の意味が含まれていて、社員は自分が勤める会社はいい会社だと周りの人に思わせたいのだ。

 


 今年は、春節休暇が終わる2月6日までテレワーク体制を続ける予定にしている。そのため食事会は開けず、昨年と同様にプレゼントを贈ることにした。社員の面子を考慮して、さすがと思われる品を選びたい。総経理から、おせち料理はどうかと提案があった。都市封鎖明けにはピッタリのプレゼントだ。西安で一番美味しいレストラン「唐楽宮」のおせち料理に決めた。




 

 

 

 
  …2月の西安…

 北京で冬季オリンピック開催  

 

 春節休暇中の2月4日、中国共産党の威信をかけた北京冬季オリンピックが開幕した。日本の取引先社長が、オリンピック観戦後に西安へ来られる計画があった。しかし、観戦チケットの販売が中止になり、西安来客も無くなった。

 


 大会のコロナ感染対策は東京オリンピックと同じバブル方式、選手たちの安全対策は万全に思える。今回のオリンピックは、中国と米国の意地の張り合いで、盛り上がりに欠ける大会になると思っていた。しかし、参加した選手たちが頑張っている姿を見ていると、大声で応援したくなる。領土、宗教、政治などの問題で国同士が戦い、国内の覇権問題でも争いが繰り返されている。お互いに大切なものを失うだけなのに。

 









 


 …3月の西安…


 春期募集

 

 中国の新卒者就職状況は、日本流に言えば氷河期に入っている。学生が「寝そべり族」と呼ぶ、希望する就職先が見つかるまで寝て待つしかないといった考え方が主流になっている。また、「高学歴貧乏」と呼ぶ、就職が難しいので大学院へ進学したが、それでも就職先が見つからない。どうすれば安定した生活を得ることができるのだ。どんな職種でもかまわない、とにかく生活費が稼ぎたい。そう叫ぶ学生たちの声が聞こえてくる。

 


 現在、彼らが目標にしているのは、安定した就職先である「鉄飯碗」と呼ぶ公務員や国営企業で、競争倍率は激しいところでは200倍にもなっている。

 


 中国の経済状況は、不動産開発不況、民間企業倒産、大手IT企業に対する締め付けによるリストラなどで、就職先を見つけるのが厳しい状況にある。我社にとっては採用のチャンスに思えるが、学生たちがコロナ感染を恐れて海外へは行きたくないと思っている。

 

 

 

 

 

 

 

 



 春の園芸作業  


 日本にベッタリの生活が始まって3度目の春を迎えた。一昨年よりも昨年、昨年よりも今年と花数が増えた。植物は恩、義理、人情を知っていて、世話をすれば必ず恩返しをしてくれる。

 


 昨年、メインの花木に選んだ椿が、春の喜びを花で伝えてくれた。これに気を良くして、園芸店で椿の幼木を購入、昨年挿し木した苗木と一緒に植込んだ。10年もすれば、「カメリア・ガーデン」と呼ばれる庭になるかもしれない。徳川2代将軍の秀忠は花癖ありと言われ、江戸城内に椿園を造ったそうだ。

 


 今年一番の作業は、過密状態になっているスイセン球根の植替えだ。200球程度を植込んだのが30年前、今では10倍、いやもっと増えているかもしれない。彫り上げ作業も大変だが、秋の植込みはもっと大変だ。残り少なくなってきた空きスペースが問題で、スイセンにするか椿にするかで迷うことになる。心を癒すために始めた園芸も、今では悩みを抱えるようになった。反省すべきは、花を求め過ぎる自分自身の欲深さであろう。




     
     


 

 

 

 …4月の西安…

 

 超高齢化社会の到来

 

 中国では超・高齢化社会の到来が目前に迫っている。長期間実施されてきた一人っ子政策によるもので、若者が結婚すると老後の世話をする親が4人になる。夫婦共稼ぎが一般的で、毎日が大変だ。国営の介護施設は少なく、環境も良いとは言えない。私立の介護施設も増えているが、利用料金が1ヶ月7500元前後と経済的な負担が大きい。

 


 昨年政府が発表した新5ヶ年計画の中に介護保険制度が盛り込まれた。だが、検討が始まったばかりで、「年寄りは国の宝」と言えるようになるまでにはまだ時間がかかる。

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

  老後の生活は

 

 中国の定年退職年齢は男性が60歳、女性が55歳、引退後の生活が気になるところ。年金の積立は、月額賃金総額の16%を企業が、8%を本人が毎月積み立てていく。それに、政府の補助金が加算されて本人へ支給される仕組みになっている。企業の負担が多いように思えるが、中国には退職金制度がなく、企業にとっては納得できる負担であろう。

 


 支給を受けるには15年以上の積立期間が必要で、積立額が多ければ多く貰える。支給開始は定年退職年齢と同じ時期からで、期間は終身、平均支給額は月額3500元(日本円:7万円)程度と聞く。

 


 一般的には、個人で年金型任意保険を積み立てて老後の生活に備える。政府も、老後資金を積極的に蓄えるよう指導していて、将来的には政府主導型の年金型保険制度ができるという噂もある。

 


 今回の年金調査の際に、興味を持ったことがある。それは、定年後に働くと個人所得税と社会保険料の負担が免除され、受け取る年金にも課税されない。つまり、収入全部が自分の懐に入ってくる。日本の高齢者にとっては、ため息が出るほど羨ましい話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 …5月の西安…

 住宅購入に関する支援 
 
 

 都会で暮らす勤労者が、住宅を購入できるよう支援する制度がある。それが住宅基金掛金制度で、毎月個人が積み立てていくだけでなく、企業も協力して個人と同額を積み立てる。

 

 住宅基金は、新築や中古住宅の購入だけでなくリフォームにも利用できる。ローンを組んでも市中より2%程度低い金利で借りることができ、利用しなければ定年退職時に一括して受け取ることもできる。

 

 この制度には、もう一つ大きな魅力がある。掛金が社会保険料などと同じように、所得控除されるところだ。この制度を有効利用しようと、企業の中には給料手当を意図的に減らして、高額の退職掛金に加入する企業があるそうだ。

 

   

 円安が進み


 このところ、日本円為替レートの下落対応で振り回されてばかりだ。2020年度の対人民元年平均換金レートは6.47、2021年度では5.82まで落ちて、2022年度の予算時にはもう一段落とした5.40で予定した。だが、新年度がスタートして直ぐの2月に、ロシアのウクライナ侵攻が始まり原油価格が高騰、日本円が急落した。

 

 西安子会社にとっては限界を越えた厳しさになり、非常事態を宣言。経費削減に取り組むが、効果は僅かしかない。制限のない大胆な取り組みが必要で、新規採用予定人員3名を1名にして、今期最大の投資を抑えることにした。残りは稼ぎを増やすしかなく、外注先を育成して増収・増益を図っていく。

 

 今年2月下旬に、元社員を1名採用して再教育を始めた。彼は、自分の会社を持つことを夢みている。力量が確認できたところで、会社開設の準備に入ってもらう。この背景には、昨年4月にOBの一人を再雇用しており、それがきっかけでOB達との接触機会が増えた。「他社に勤めてみて、初めて我社の魅力を感じた。」と話す連中が多い。西安の常識では開発技術者の退職年齢は35歳、我社のOB達もこの年齢に達してきた。資金支援と仕事量の確保を約束して、この試みは5月下旬にスタートした。

 

 

 

 

 

 

 …6月の西安…

 玉器磨き 


 蚊の来襲時期になり、玉磨きを始めることにした。最新の玉器情報が知りたくて、2019年からの玉器オークション誌を西安から送ってもらう。調査の結果、業界の専門用語で「高古玉」と呼ばれる漢時代以前の掲載数が増えていた。高古玉の価値が正しく評価されるようになったことが嬉しい。

 

 私の玉磨きの目的は、玉石に浸み込んだ歴史の色を浮かび上がらせること。2009年の異常な価格高騰で玉器収集がストップした。その時から始めたのが玉磨きで、ひたすら布とタワシで磨いてきた。歴史の色が浮かんできた時は、宝くじの一等賞に当選したに等しい喜びを感じたものだ。

 

 これからの作業は、残されている細部の汚れを綺麗にして、歴史の色を際立たせるせること。好きな作業ではあるが、高齢化が気になり、一部の作業を電動化することにした。これにより、作業時間は大幅に短縮された。だが、これまでのような満足感が感じられない。苦労なくして幸せはなしということだ。

 

 

 

 

 

 上期の終わりに


 ロシアのウクライナ侵攻で世界中が大混乱。コロナ感染も治まらず、西安を離れて2年4ヶ月が経過。いつ西安へ戻れるのだろう。