2023年下期のはじめに

     

     西安へ行けなくなってから3年半が経過。この間に、西安開設記の休止について幾度も考えたが、その度に読んでくださっている方がいる限り、止めることはできないと思った。


     ただ、気になっているのは、西安の記事が減り私的な話が増えたことだ。西安記事でいっぱいになるよう、岡山・上海便の早期再開と高額な航空運賃が落ち着くことを願っている。


     

     

     

     

        …7月の西安…


     増員計画を考える

     

     本社開発体制強化ためには日本で新規採用を進めなければならないが、今は厳しい状況にある。西安で採用を進めるが、西安の状況に変化があった。


     これまで、ソフトウエア開発技術者は学生が憧がれる職業だった。しかし、大手ソフトウエア会社の数社が、社員を大量解雇したことで業界の人気が急落。学生たちは、雇用の安定を求めて公務員や国営企業を志望するようになった。


     明るい話とまでは言えないが、中国経済の景気後退で外資系企業が見直され、海外で働いてみようと考える学生が増えてきた。中国から近い国の日本は有利な立場にある。円安の影響で以前ほどの人気はないが、そんなことなど気にせず日本企業であることを前面に出して募集活動を進めていくつもりだ。


     

     

     

     

     

     

     

     

     

     


     
     昇給を考える 

     

     中国経済は不況に突入、今年は大幅な賃金上昇はないだろう。それに、暫く円安が続くことが予想され、今期の昇給は抑えるしかないだろう。


     そうなると、限られた原資を如何に配分するかが重要になってくる。審査項目について考えたが、春節と労働節の休暇中に会社の指示に対して反抗的な社員がいたことが気になっている。自己中な要求だっただけに悲しい思いをした。


     私的な欲は抑えて、会社貢献を第一に考える社員になってもらいたい。そんな思いを込めて、人間性と仕事に取り組む姿勢を重視して審査する。



     

     

     


      …8月の西安…


     岡山・上海便が再開

     待ちに待った岡山・上海便が、8月4日から週2便飛び始める。このニュースを喜んだが、新たな問題が発生していた。ビジネス・ビザの取得が厳しくなり、15日以内のビザなし渡航ができなくなった。


     ビザ申請の調査を進めていくと、渡航者と受入責任者の詳細な個人情報の提供が必要になり、領事館へ出向くことも義務化された。これでは中国へ行きたいと思う人が減り、観光業界や航空業界から反対の声が挙がるはず。申請手続きが簡素化されるまでに長くはかからないだろう。それまで西安行を待つことにした。


     本社へ移籍した中国人社員が帰国することに問題はなく、彼らに4年振りの帰国休暇を与えた。8月14日に1名が笑顔で帰国、残り1名は本人の希望で12月に予定している。




     

     



     

     
     新入社員研修を考える   


      これまで新入社員と接してきて感じていることは、中国の教育は学問を教えるだけで、人としてのあるべき姿を教えていない。儒教が生まれた国なのに悲しい状況だ。大切な仁・義・礼・智・信の教えを、今の親たちは忘れている。


     我社では、入社すると直ぐに人としての教育を始める。幼児期から始めるのと違い、固くなった頭を解きほぐすところからのスタートになるので、総経理の苦労も多い。


     会社開設時から一緒に指導してきた総経理は、今の教育内容は新入社員にとっては「雲の上の話」で、理解させるのは無理だと言う。その通りだとは思うが、人としてのあるべき理想の姿を話しておく必要があると思っている。


     私自身がそうであったように、入社研修から数年経った後に、これは入社研修で聞いた話だと思い出すことが多かった。直ぐに理解できなくても、いつか理解できればそれでいいのではなかろうか。

     

     

     

     

     




     

     

     

     
     …9月…


     政府補助金に期待
      
     

     長い期間停止していた輸出促進補助金が、昨年9月に復活した。申請に必要な書類が多く、深夜残業を伴う大仕事になる。だが、そんなことは言っておられない。


     昨年は補助金が復活した初めての年で、条件に合わないところがあり、申請額の半分しか認めてもらえなかった。今年は完璧な準備をして、満額支給を目指したい。対象期間は昨年7月から今年6月までの1年間で、対象期間に合わせた集計が必要で、前回の申請時に当期用の集計用紙を準備して毎月入力してきた。申請作業を怠ることはない。


     準備は終わっているが、9月末になっても肝心の補助金支給に関する政府発表がない。地方政府の財政が苦しいと聞くが、今年の補助金は無いのだろうか。

     


     

     

     

     


     …10月の西安…


      国慶節休暇に思う

     

     5月9日のロシア戦勝記念日に、モスクワ赤の広場で行われた軍事パレードは寂しいものだった。何故やったのか疑問が残るほどだ。中国の国慶節軍事パレードは中止が続いただけに、これまでより数倍派手なイベントになるだろう。一糸乱れぬ軍隊の行進は実に見事だ。


     軍事パレードを楽しみにしていたが、7月下旬から続く豪雨で北京を中心に洪水が発生。流されていく車の映像が日本のニュースでも報道された。その後も全国各地で洪水が発生して、軍事パレートどころではなくなった。


     都市封鎖、不動産不況、洪水と続き、中国経済は更に厳しくなった。「中国経済はこれからどうなるの?」と、多くの中国国民が不安を抱いている。果たして経済再生なるか。微力ながら、我社は新規採用者数を増やして中国経済再生に協力していくつもりだ。

     

     

     

     

     

     


     

     

     


     

     西安から社員が来日

      

     7月上旬に、社員1名の在留資格認定証明取得を申請した。日本滞在予定期間は1ヶ月、短期ビザで対応できる期間だが、北京にある日本大使館の審査は厳しく、3週間を超えるあたりから日本へ稼ぎに行くと判断して短期ビザを発行してくれない。在留資格を申請しろとの指導がある。


     在留資格申請から1ヶ月、日本入国管理局から認定証明書が送られてきた。直ぐに西安へEMSで発送。到着後、西安から北京の日本大使館へ在留資格認定証明を添えて滞在ビザを申請。コロナ感染拡大による渡航禁止から4年振りの来日になる。


     短期ビザでは給料手当は西安子会社から支給するが、在留資格では日本の本社から支給しなければならないルールと認識している。本社からの支給になると、在留カードを取得して社会保険制度へ加入しなければならず、所得税納税といった対応も必要になる。


     不安に思い、入国管理局へ取扱いについて問い合わせてみると、3ヶ月以内の滞在では在留カードは発行できないと言われた。そうなると日本の社会保険に加入できない。西安から給料支給するしかなく、入国管理法に違反するではと訊ねると、3ヶ月以内の短期滞在は調査の対象になっていないとの回答だった。つまり、調査しないから違反にならないということだ。外務省と法務省の連携がスッキリしないように思えるが、指示通りにやるしかない。

         
         

     

     

     

     


     

     秋の園芸作業

     

     

     西安出張が停止してから自宅の庭で過ごす時間が増えた。庭を眺めているうちに、里山の自然が感じられる雑木ガーデンや華やかなイングリッシュ・ガーデンに興味が湧いてきて、幼木や草花を購入しては空いたスペースに植込んでいった。その結果、落ち着かない庭になってしまった。


     対策を検討するが、日本住宅には日本庭園が似合うことを再認識。だが、里山の雰囲気や華やかさが感じられる庭も好きだ。この難問の解決策を検討すると、庭を3分割してそれぞれの良さを持たせながら、全体としては和の雰囲気が感じられる庭にすることが考えられる。


     具体的には、門から玄関へ続く通路の両側は手入れされた樹木が並ぶ雑木ガーデン、その樹元に和と洋の草花が彩を添えるナチュラル・イングリッシュ・ガーデン、石段を登ると和式の水回りから枯山水の庭へ続く。完璧な計画に思える。


     まず、適当に植込んだ幼木や草花を、それぞれに相応しい場所に植替える。次に雑木を和の雰囲気に仕立て直す。確かに効果があったが、雑木ガーデンに和の趣を強化したくなった。そこで、日本原産の庭木を購入するため、馴染みの老舗店を訪ねた。だが、数店あったいずれの店も無くなっていた。


     何故なのかを考えた。日本の住宅デザインが洋風に変わり、和風住宅を建てる人が少なくなった。それに、手間と費用がかかる日本庭園よりも、気楽にガーデニングが楽しめる庭が好まれるようになった。これが老舗店の消えた理由に思えてくる。手間が掛かるからこそ楽しみも多いと思うのだが、このような考えの人も少なくなってきたようだ。

     

     

     


     

     

     

     

     …11月の西安…

     

     秋は烏龍茶に

     

     毎年秋になると、茶葉を緑茶から烏龍茶に切り替える。烏龍茶には肥満の人の体重を減らす効能や脂質異常症を予防する効果があり、食欲が増す秋にはピッタリだ。日本で烏龍茶と言えば「鉄観音」が知られているが、私が好きなのは「大紅袍」だ。


     これには物語がある。2003年から大連出張が始まり、宿泊したホテルの近くにあった茶館へ通った。その店で様々な烏龍茶を試飲した結果、選んだのが「大紅袍」だ。濃厚な花の香り、それに甘さと美味さの両方を兼ね備えた上品な味に魅了された。


     「大紅袍」は、烏龍茶のなかでも「岩茶」と呼ばれるエリート集団に属し、その中でも特別に「茶王」と呼ばれる銘茶である。「岩茶」と言われる理由は、畑で栽培されるのではなく、福建省武夷山の険しい岩場で栽培されるからだ。岩から染み出てくるミネラル分を吸収して、茶葉が特別な味や香りを持つようになると言われている。


     茶葉の味は値段とイコール。より美味しい茶を飲みたいと思うと、購入金額は上昇していく。そこで、「平日は我慢・我慢、美味しいお茶は休日だけ。」をルール化して、経済的負担を軽減しながら楽しんでいる。

     

     

     

     

     

     

     

     

     当期の損益管理


     当期を振り返ると、非常に厳しい1年だった。日本円換金レートが最安値更新を続け、人民元への換金額が予算計画を下回り、赤字を避けるために経費削減に追われてばかりだった。


     新規採用人員を削減して投資額を抑え、本社転属時期を次年度へ延期、一部厚生行事を中止するなどして経費削減に努めた。だが、悪いことは重なるもの、本社からの作業量が増えて超過勤務手当の支給額が前年比で188%増になり、予定になかった短期出張まで発生した。


     だが、赤字で終わらせては董事長としての面子がない。本社の売上に貢献して、西安の単価改訂金を確保してもらうことを考えた。そこで、長時間運転に耐え、県外のお客様を中心に福祉商品の販売に努めた。苦しい時こそ頑張り甲斐があるというもの、目的が達成できるところまできた。


     

     

     

     

     

     

     


     …12月の西安…


     冬期の玉器磨き

     

     炬燵に入り、西部劇映画を観ながら玉器を磨くのが冬期の作業スタイル。寒がりの私にとってはとても相性の良い作業で、安らいだ時が過ごせる。


     この冬は、西安が最も華やかだった時代・唐の時代から作品を選ぶことにした。唐代作品の魅力は優美な曲線で、その代表格である「伎楽飛天」から始める。4体が1組になっていて、中国では珍しくセクシーさが感じられる作品だ。飛天は天空の世界に住み、空を優雅に舞いながら楽器を奏で、人々を幸せへと導いてくれる。西安では各所に飛天像が設置されていて、唐の雰囲気を感じさせてくれている。


     最近、西安を訪れる女性観光客に大人気なのが、頭から足先まで唐や漢の時代の麗人に変身して、大唐不夜城を歩くことだと聞く。不夜城から届く映像を見ると、女性たちの気分はもう楊貴妃だ。


     二つ目は「琵琶」だ。ペルシャで生まれて中国に伝わり、唐のデザインで優美な姿に生まれ変わった楽器である。奈良の正倉院には同時代の琵琶が保存されており、中国と日本の交流の歴史が感じられる。唐代は、焼物が大流行したために玉器の数は少ない。だが、純度が高い優質白玉が使われている作品が多く、魅力十分だ。


     歴史上で中国の国力が強かった時代は、漢・唐・清の3つの時代。その勢力は、現在の新疆ウイグル自治区ホータンを支配下においた。ホータンに近い崑崙山脈から、玉の原石は数千万年をかけて川を降る。その途中で、太陽、水、空気といった自然の影響を受けて味わいを深め、神の光が宿る石としてホータンへたどり着く。


     中国では、ホータンの川から採取される玉石が最優質とされている。この優質川石が作品に使われたのは漢と唐の時代で、清の時代になると川の石は枯渇して、崑崙山から採取される山の石に変わった。山石は綺麗だが、味わいに欠ける。玉収集家は、川から採取される石への強い拘りがある。


     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     終活-Ⅲ


     終活の第三弾は焼物だ。24歳の誕生日を迎えて、両親との約束を守って9年間過ごした横浜から故郷の岡山へ戻った。田舎の生活を楽しもうと陶芸を習い始める。土の塊から、どうしてこんなに美しい物が生まれるのだろう。そんな思いから陶芸にはまり、自宅の庭に陶芸窯を設けて自宅用陶器の制作を始めた。


     備前焼と倉敷にある酒津焼の窯元を訪ねては、教材用にと次々と買い集めた。花瓶や壺、皿や小鉢、茶碗や置物などと種類も多い。その中に、教材ではない一品がある。それは、酒津焼の窯元から無理矢理に譲ってもらった品で、裏千家15代家元が27歳の時に窯元を訪ねて来た際に詩と絵を書き入れた菓子鉢が三個あり、収蔵品はそのうちの一個である。茶の心が感じられる素敵な作品だ。


     その他、県外へ出掛けた際などに、空時間を見つけては各地の窯元を訪ねた。購入品の多くは土の温もりが感じられる陶器だが、磁器や西洋の焼物も対象外ではない。毎年母の誕生日には、イギリスやドイツの磁器カップやイタリアの装飾品をプレゼントしてきた。父は店に飾る大型の焼物を収集。今はそれら全ての焼物を受け継いだために、自宅に飾り棚と食器戸棚が並ぶことになった。西安へ通うようになってからは中国製も増えて、家中が焼物でいっぱいだ。これまでに数が減ったのは、訪ねてきた友人たちが持ち帰った備前焼の徳利とぐい?みくらい。


     多量の焼物をどう終活するか悩んでばかりいる。買い取り専門店へ持ち込む話も聞くが、可哀そうな値段を付けられて腹が立つだけ。子供たちは欲しがらないし、訪ねてくる焼物好きの知人ももういなくなった。


     その他にも悩んでいることがある。焼物は使い込んでいくうちに味わいが増して愛おしく感じるようになる。特に、和食器などは精神的なやすらぎまで与えてくれる。焼物の終活はできそうにない。

     

     

     

     

     

     

     2023年の終わりに


     この一年を振り返ってみると、一番の変化は募集活動だ。これまでの秋期募集は、9月に始まり10月中旬に終わっていた。ところが、始まりは同じでも今年は終わりがない。12月になっても毎日応募がある。また、以前は西安近郊の大学からの応募者が殆どだったが、今年は全国の大学から申し込みがある。日本へ留学している学生からの応募まで増えた。


     中国の経済状況は、2019年から始まった都市封鎖で多くの中小企業が倒産、その後大手企業が大量リストラを実施するなどで失業者が急増した。そうなると、職業経験のない大学や大学院新卒の職場は減るばかり。昨年就職できなかった新卒者は50%以上、それに今年の新卒が加わり、就職戦線はとんでもなく厳しい状況になっている。


     企業有利の状況で、採用試験をオンラインから来社しての試験に切り替えた。本気で就職を希望する学生なら、どんなに遠くても来社するはずと考えた。手間は掛かるが、採用に失敗がないことが何よりである。